国際社会や日本人はタリバン政権といかに対峙すべきか?【レシャード・カレッド×中田考】第3回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国際社会や日本人はタリバン政権といかに対峙すべきか?【レシャード・カレッド×中田考】第3回

「タリバン復権の真実」と「今、アフガンで生きる民間人の実情」を知りたい。

■日本政府に求められること

 

中田:ありがとうございます。最後に、日本政府には何が求められるのか、教えていただけますか。

 

レシャード:今回のタリバンの制圧が起こる前から、私は日本政府に対して、ぜひともアフガニスタンのことに知らんぷりしないで、指導的な立場で動いていただきたいというお願いをしていました。現実として、アフガニスタンを支援した多くの国々の中で、軍隊を出さずに心の底から支援をしてくれていたのが日本なんですよ。

 ですからアフガニスタンでは日本人はものすごい尊敬されているし、信頼されているところがあります。同じアジアの国々の中での日本ですから、ぜひとも日本政府は、アフガニスタンを見捨てるのではなくて、支えていただきたいです。

 もうひとつ大切なことは、金銭的な支援も大事ですが、「腹をへらした人に魚を食べさせるんじゃなくて、魚の捕り方を教えてやってくれよ」ということです。そうすれば次からは自分で捕れるようになって、自力で食べれるようになる。そういう技術が今一番大切なんですね。

 アフガニスタンは農業国です。日本は農業の産業が盛んだし、いろいろなやり方を分かっているのだから、ぜひとももう一回アフガニスタンで農業がちゃんと成り立つような支援していただきたい。みんなが自分で働いて食べていける術を作ってあげるということが、今一番大切ではないかなと思います。

 そういうことを含めて、日本政府に優しさが欲しいと願っています。もうちょっと人のことを考えて、そこに住む人たちの想いを汲んでいただければありがたいです。

 政治的な理由があるのは仕方ないことですが、それは別としても、少なくとも、アフガニスタンが今何を必要としているのか?食べていけるようにするに必要なことは何なのか?ということを、ぜひとも日本の国民、日本の政府にはご理解いただいて、そのような形のご支援をいただければ本当にありがたいと思います。

 

中田:ありがとうございます。できる限り伝えていきたいと思います。

 

 

■「生きていること」への共感こそが本質

 

編集担当:アフガニスタンに対して関心を持っていただくために、今回、中田先生が書いていただいた本がきっかけになるかと思っています。

 

レシャード:ありがとうございます。私も大きく期待しております。

 

編集担当:私からの質問として、日本のメディアの悪いところなのですけど、どうしてもタリバンを悪役に仕立てた。プロパガンダ的な報道が非常に多くて、現実的な「子供たちが飢餓に陥っている」といったニュースはまだ少ないくらいです。

 そういったところの西側メディアのプロパガンダ、宣伝的な報道を、レシャード先生はどのようにご覧になっているか、そして我々日本人は、どのようにニュースを見ていったらいいか、うかがえますでしょうか。

 

レシャード:タリバンに対する報道の仕方は全くおっしゃる通りで、あまりいいニュース、いいアイディアが出てこないという面はあるし、それが印象を悪くしているというのは事実です。

 しかし、タリバンであろうとなかろうと、アフガニスタンに人が住んでいるんです。生きて生活しているんです。その人たちがどのように安心して暮らしていけばいいのか?という観点を、私は先に考えていただきたい。

 なぜそのように言うかというと、タリバンであろうとなかろうと、あの国を司る人が頑張ってくれないとしょうがないんですよ。その人たちがアフガニスタンをどういう方向に向かわせるのか?安心して暮らしていける術をどういうふうに身につけられるのか。それが僕にとっては一番大切です。

 たまたま今までの政府がまともなことができなかったから、今のような状況になってしまった。多くの国々が支援したり、あるいは指導したり資金を出したり、いろんなことをやっていただきましたが、それが実を結ぶことはなかったんですね。

 それを考えてみると、今は次のステップに期待するしかないんです。その「次のステップ」が今のタリバンの政権であって、だから今の彼らに我々は期待するしかない。彼らがどういうふうに国づくりをしていくのか?どういうふうな形の社会をつくっていくのか?そこを見守って、やっていくしかないと思います。

 確かにタリバンは、いろいろなことを今までやってきましたし、あるいは印象が悪かったかもしれません。しかし彼らも、20年間いろいろなことを学び、世界中のいろんなことを見聞きしてきました。ですからきっと彼ら自身も、次のステップとして、この国の将来をどう担っていくべきなのかということをちゃんと考えてきていると思います。

 但し、私が申し上げたように彼らが無知であったり、あるいは認識が十分でないとすれば、それは国際社会のみんなが指導して、なんらかの形で応援してあげたり、なんらかの形で方向性を示してあげる。そういった一番大事だろうと思います。

 そういう心で、温かく見守る。見守るだけではなく、支援していく。

 あるいはタリバンに、国を司ることになったんだったら、その国をどうしていくのが良いかをみんなで説いていく必要があります。説いていくのと同時に、じゃあ私たちはそこに何をしてやれるのか?どう支援できるのか、あるいは支えてやれるのか?という気持ちが今一番大事なことだろうと思います。

 その根本にあるのは、先ほど言ったようにみんな生きているんです。大変な苦労をして生きている子供たち、大変な苦労をしている男性、女性、いろんな人たち。彼らの人生や生活を先に考えていただければ、誰であろうとも、それを守ってあげたい。支えてあげたい。ちょっとでもいい方向に向けさせてあげたいと思うでしょう。

 そういったことを皆さんに考えていただきたいと、私は願っています。

 

構成:甲斐荘秀生

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イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
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    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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